工業用水道管の破裂事故にみる寿命管理の難しさ

「安全と健康」誌、2011年10月1日発行

プロフィール

  • 教授 武藤 睦治 (むとう  よしはる)

1976年大阪大学大学院博士課程修了、助手を務めた後、1978年より長岡技術科学大学機械系助手、助教授、教授、2006年より同システム安全系教授。事故解析、強度信頼性に関する研究・教育に従事。

  • 特任講師 大塚 雄市(おおつか ゆういち)

2007年九州大学大学院工学府機械科学専攻博士課程修了、博士(工学)。同年長岡技科学大学産学融合トップランナー養成センター特任講師、現在に至る。信頼性・安全性設計システム、安全管理システムの研究に従事。

工業用水道管の破裂事故にみる寿命管理の難しさ

  • 工業用水道管の破裂事故

 2010年1月20日午後10時過ぎ、静岡県内で、埋設されていた工業用水道管(直径約900mm)が破断し、周囲の工場77社への給水が停止した。この影響で周辺の道路が冠水するとともに住宅の床下浸水も発生し、14世帯が避難する事態となった。
 この水道管は鉄管(球状黒鉛鋳鉄に亜鉛メッキやライニング、塗装等防食処理を施したものと推定される)で、地中約90cmに埋められていた。調査によれば長さ約2m、幅40cmにわたる亀裂が確認されている。1958年から使用し、一般的な耐用年数の40年を超えていたが、管理担当者は「定期検査で老朽化が確認されなかったので、交換の予定もなかった」と話したとのことである。
 一方で、2009年8月11日に静岡沖地震(M6.5)が発生していることから、その影響があったのではないかとの指摘もある。 

  • 長期間使用することは想定外?

 この事例では、耐用年数が過ぎているにもかかわらず、定期点検時に異常がなかったことから使用され続けている。しかし、設計者が意図しない長期の使用について、その信頼性が担保されているわけではない。
 一方で、標準的な耐用年数を過ぎた場合、どのような問題が起こりうるのかについての情報が提供されているわけでもない。さらには、設計者はある程度の設計余裕をとって設計しているので、耐用年数を過ぎてすぐに破断するわけでもない。このことを経験的に理解している使用者が、耐用年数を軽視して使用を続けることは容易に想定できる。

  • 長期使用製品安全点検・表示制度1)

 このような問題に対し、2009年4月1日から、長期間の使用に伴い劣化により安全上支障が生じ、特に重大な危害を及ぼす恐れのある工業製品について、標準的な使用期間を表示するとともに注意喚起を促すことを義務づける制度が発足している。
 ただし、この表記だけでは寿命管理はできず、取り替え時期を明示するセンサーを設置する等、機能監視と併用することが必要とされている。
 たとえば金属疲労においては、寿命予測のばらつきが1桁(例:1〜10年など)あることも珍しいことではない。また、一般的な寿命予測では、加速試験を行って標準的な寿命を求めるが、地震等の想定外の因子が混入した時、その予測がどうなるかは不明である。ここに寿命管理の難しさがある。
 労働現場でも、特に安全上重要な機器においては、標準的な使用期間を明示すべきである。その上で、使用による劣化が想定以上に早い場合や、事故、自然災害の発生など、使用期間を短くし得る因子について情報提供することで、長期間の使用における交換等の判断を適切にできる環境整備が望まれる。

参考文献
1) 川池襄、循環型社会における製品の経年変化・寿命管理ー消費(廃棄)型から循環型寿命管理への変換ー、安全工学会誌、VOL.50、NO.1、pp.2-9、(2011)