“NEVER SAY NEVER”を肝に銘じ、災害対策を再構築すべきとき

「安全と健康」誌、2011年6月1日発行

プロフィール

  • 教授 三上 喜貴 (みかみ よしき)

1975年東京大学工学部計数工学科卒業。通商産業省入省。情報政策企画室長等を経て、1997年長岡技術科学大学技術経営研究科教授。安全の制度設計に関する研究に従事。慶応義塾大学政策メディア研究科より博士号。

“NEVER SAY NEVER”を肝に銘じ、災害対策を再構築すべきとき

史上最大級の大地震と津波、そしてこれらに引き金をひかれたレベル7の原発事故。未曾有の複合大災害が東日本を襲った。論ずべきことは多いが、災害対応に焦点を絞り、特に米国の連邦緊急事態管理局(FEMA)との対比を通じて日本の課題を考えてみたい。

  • コーチのいないスポーツチーム

米国では、1979年のスリーマイル島原発事故に際して連邦政府・自治体の対応が混乱したことへの反省から、既存の防災関係機関を統合する形で、危機管理行政の調整機関としてFEMAが創設された。この組織が完璧とは言わないが、その後の幾多の災害への対応を経て機能や組織が強化され、9・11(2001年)の際に活躍したのは記憶に新しい。
そのFEMAの専門家が日本に一年間滞在して防災体制を調査し、問題点を指摘したという報告書の紹介記事1)を読んだ。3・11以降の事態を振り返るとき、日本の危機管理体制を「コーチのいないスポーツチーム」に喩えたこの専門家の20項目にわたる指摘は、多くの示唆を含んでいるように思える。

  • 重要な4つの視点

指摘のうち次の4つの重要な視点がある。
第一に災害対応にあたって迅速な決定を可能にする専門組織設立と権限付与だ。報告書は「FEMA長官は災害時に重要な決定を行いうるのに対して、日本の災害対応当局の責任者は内閣と総理にアドバイスをできるだけである」と述べる。FEMA長官には決定を裏づける3,700人の常勤職員と災害救援基金という独自財源が与えられており、緊急時に法の壁や予算を巡って調整する時間を省ける。
第二に災害時計画と訓練の実質化である。報告書は「日本政府には包括的な災害計画がなく」、数多く行われる災害訓練も「台本にある技術の披露であることが多く、意思決定の練習になっていない」と手厳しい。先日の国会で毎年恒例の原子力総合防災訓練のマンネリ化が指摘されていたが、とことん想像力をめぐらした計画策定と教育・訓練が必要だ。
第三に被災者の生活再建への財政支援だ。鳥取県西部地震の時、当時の県知事が県予算で住宅再建支援に踏み切って議論を呼んだ。日本の災害援助法には住宅補修や生業支援のための財政支出を認める規定があるが、憲法上の疑義すら提起されるありさまで、現実には機能していない。FEMAの運営する連邦洪水保険制度のような独創的なシステムについて日本も学ぶ必要を感じる。
第四に自衛隊の位置づけだ。今回10万人といわれる動員体制を敷いた自衛隊は頼りになる存在だが、災害出動は自衛隊にとって依然として従たる任務であり、装備や訓練もその制約下にある。隊員の間にも、ここまで常態化した災害派遣にふさわしい装備や体制を得ればもっと実力を発揮できるのにというもどかしさがあると聞く。
本稿で挙げた、意思決定の迅速さや有事の際に適切に対応するための訓練は、企業の取り組みにおいてもたいへん重要な視点となる。
“NEVER SAY NEVER”(絶対ないとは言うな)を肝に銘じて、我が国の災害対応能力を真剣に再構築する必要を感じる。

参考文献 1) 務台俊介(総務省消防庁防災課長)、「米国専門家が見た日本の危機管理」、季刊消防科学と情報 No.68、2002年春号