原発地震災害から機械安全技術者が学ぶべきこと

「安全と健康」誌、2011年5月1日発行

プロフィール

  • 准教授 木村 哲也 (きむら てつや)

1995年 東京工業大学博士課程単位認定退学。神戸大学助手、大阪府立大学助手を経て2001年より現職。システム制御工学と国際安全規格の立場からサービスロボットの安全の研究に取り組む。博士(工学)。

原発地震災害から機械安全技術者が学ぶべきこと

  • 東日本大震災

M9.0という「想定外」の大地震が2011年3月11日に東北関東沖で発生し、死者・行方不明者約3万人(3月末現在)という未曾有の被害が生じた。
地震による津波が被害を拡大し、特に福島第一原子力発電所では津波による浸水で燃料の冷却機能が正常に作動せず、放射性物質の拡散など地震後の二次被害も発生した。
ここでは既に調査が実施された新潟県中越沖地震時の柏崎刈羽原発を例に、原発地震災害という大きな教訓から機械安全技術者が学ぶべきことを考えてみたい。

  • 新潟県中越沖地震時の柏崎刈羽原発に関するIAEA報告書

IAEA(国際原子力機関)は原子力の平和利用のための国際的な監視機関であり、原発の安全基準の作成、普及にも協力している。
2007年の中越沖地震で被災した柏崎刈羽原発に対し、地震発生直後に日本政府に提出されたIAEA調査報告書では、表(下表)に示す項目が「主要な発見と教訓」の章で個別事例として取り上げられている。

  • 機械安全における多重化と共通原因故障

機械安全では安全装置を多重化する場合、共通原因故障の典型的な例は、温度上昇による電気電子回路の異常動作である。
共通原因故障が生じる場合は、いくら多重化していたとしても単一故障として安全設計を行う(安全性を低く評価する)ことが制御安全規格ISO13849-1:1999に示されており、同規格の2007年版では共通原因故障の割合が制御系の安全性指標Performance Levelに明示的に取り入れられている。
共通原因故障への対応では、単純な多重化でなく異なる技術(電気と空気圧等)を用いて多重化する異種冗長性(ダイバーシティ)の利用が推奨される。
上記IAEAの報告の中では、地震という一つの原因から同時に生じる複数の事故(配管ズレ、火災、地盤破壊、基礎部の破壊)に注意を払うべきとしており、共通原因故障の考慮の重要性を表していると考えられる。
機械安全が関わる生産設備も複雑化・大規模化しており、安全性の向上に多重化技術が重要な役割を果たしている。「多重化したから安全」という単純な安全設計でなく、共通原因故障の考慮など、国際安全規格に示される知見を十分に活用した慎重な安全設計が望まれる。

表 柏崎刈羽原発に対するIAEAの調査報告書の要約(報告書より筆者が要約)

1 観測された地震動が設計時の地震動より過大であった。安全率を見た設計により重大事故にはならなかったが、適切な安全率を決定する体系的アプローチが必要である。
2 地震によりどのような被害が生じるか、確定的・確率的アセスメントにより被害の再評価が必要である。
3 外部からの供給電源は停止せず現在の基準は余裕があると考えられるが、今後は詳細な検討が必要である。
4 複数の配管が同時に外れるなど、地震に起因する共通原因故障の考慮が必要である。
5 火災も地震に起因する共通原因故障として考慮が必要である。
6 地震により生じる物の落下、漏水等が各機器にどのような相互作用を与えるか考慮すべきである。これは、設計・建設・保守の全フェーズで考慮が必要である。
7 地盤の破壊を考慮すべきである。
8 基礎と固定の破壊を考慮すべきである。
9 反応炉の安全に関してマネジメントはすべて適切に行われた。しかし、放射能漏れの規制当局への報告が遅れた。外部の緊急対応機関に放射能漏れ情報を迅速に報告するためには、一貫したコミュニケーションとモニタリングシステムが必要である。
10 2件の少量の放射能漏れが観測された。これらの原因は原発事業者により十分理解されている。

参考文献) IAEA, “PRELIMINARY FINDINGS AND LESSONS LEARNED FROM THE 16 JULY 2007 EARTHQUAKE AT KASHIWAZAKI-KARIWA NPP” REPORT TO THE GOVERNMENT OF JAPAN, 2007