中華航空機炎上事故

「安全と健康」誌、2011年3月1日発行

プロフィール

  • 教授 門脇 敏 (かどわき さとし)

1986年筑波大学大学院工学研究科修了、工学博士。同年名古屋工業大学助手。同講師を経て、2000年長岡技術科学大学機械系助教授。2006年システム安全系教授。専門は燃焼学。

中華航空機炎上事故

  • 事故の概要

 2007年8月20日、中華航空ボーイング737-800型機が那覇空港に着陸した直後、エンジン部から出火して炎上し、機体は大破、一部を残して焼失した。
 同機には、乗客157名と乗務員8名の計165名が搭乗していたが、短時間のうちに全員が機外へ脱出し、死傷者はいなかった。
 この事故では、同機が那覇空港に着陸した後、主翼のスラット注)を格納する際に、右主翼内の燃料タンクにボルトが突き刺さって壁面に破孔(はこう)が生じ、ここから大量の燃料が機体外に漏れ出した。そして、漏れ出した燃料が右エンジンの高温部に触れて発火し、機体全体が炎上するに至ったのである。
 燃料タンクにボルトが突き刺さって破孔が生じたことについては、スラットのアーム(支柱)の後端に取り付けられていたボルトが脱落し、それがスラット格納の際にアームに押されたことによると推定されている。また、ボルトの脱落については、中華航空が事故の前月にボルトを締め直した際に、ワッシャー(留め具)を付け忘れたことが原因ではないかといわれている。 

  • 乗務員に対する国民の反応の違い

 事故機の乗務員に対する国民の反応は、台湾と日本の両国で大きく異なっており、大変興味深いものがある。台湾では、これだけの大事故が起きたにもかかわらず死傷者を出さずに全員を脱出させたことに対して、機長や客室乗務員に賛辞が寄せられていた。一方日本では、彼らは乗客全員を無事に脱出させ、また事故原因との直接的な関係がなかったにもかかわらず、称賛されるどころか避難時の対応のまずさが指摘されていた。
 日本では、事故を起こした当事者および関係者を糾弾し、責任を厳しく追及する傾向がある。この事故では結果的に死傷者は出なかったが、一つ間違えれば大惨事になっていた可能性があることから、乗務員を英雄視することにためらいがあったのではないかと推察される。
 米国では、2009年1月15日にハドソン川に機体を不時着させた機長が英雄視されているが、同様な事故が日本で起きた場合、同じ反応が生じたかどうかは疑問である。

  • 安全の確保

 われわれは事故が起きると、その原因を突き止め、明らかにし、それを基に安全を確保しようとしてきた。つまり、安全の確保には事故の原因究明が不可欠ということになる。
 日本では、事故を起こした当事者に対し、責任を厳しく追及して罰を与えるという制度をとっている。時折、事故の責任追及の過程で当事者の協力が得られず、事故原因が明確にならないケースがある。当事者の協力が得られないと、事故から得られる情報が少なくなり、将来の安全確保につながらなくなってしまう恐れがある。この問題をクリアするためには、何らかの解決策を考えなければならない。海外における免責や司法取引の制度を検討することも、賢明な術の一つではないだろうか。

注)スラットとは航空機の離着陸時において、揚力を調整するために主翼から前方に移動する部品のことである。