人工心肺装置の送血ポンプのチューブ破損〜説明義務、警告義務とは〜

「安全と健康」誌、2011年2月1日発行

プロフィール

  • 特任講師 大塚 雄市 (おおつか ゆういち)

2007年九州大学大学院工学府機械科学専攻博士課程修了、博士(工学)。同年長岡技術科学大学産学融合トップランナー養成センター特任講師、現在に至る。信頼性・安全性設計システム、安全管理システムの研究に従事。

人工心肺装置の送血ポンプのチューブ破損〜説明義務、警告義務とは〜

  • 送血ポンプのチューブ破損

 平成7年7月12日、千葉県内の病院において、心臓に「右室二腔症」があるとの診断により右室流出路の狭窄(きょうさく)部拡大のための心臓手術を受けていた患者が、人工心肺装置中の送血ポンプのチューブの破損により血流中に空気が混入して脳梗塞を発症し、言語障害、右手運動障害等の後遺症を負った。
 この医療事故に対して損害賠償請求訴訟が提起され、臨床工学技士に対しては、安全性確保の義務から生ずる機器監視義務に違反していた過失が認定され、人工心肺装置の製造会社に対しては、本件機器の操作に関する製造者としての説明ないし警告の義務に違反する過失が認定された。

  • “想定外”の事故に対する注意義務

 この事例では、ポンプ内でローラーとともに回転していたチューブガイドの先端部の角が、浮き上がっていたチューブの一部分に接触し、チューブの外壁を削り、3cmの穿孔(せんこう)をもたらしたことが、亀裂の発生機序であると認定されている。また、亀裂から空気が流入して患者の脳内に流入したため、重篤な脳機能障害をもたらしたことが認定されている。
 本来、チューブの浮き上がり等を防止する機能を有していた上側チューブガイドが、ポンプ外のチューブが下方に垂れ下がっていたこととチューブの締め付けが不十分であったために機能せず、チューブが浮き上がったとされている。
 通常、チューブの破損は想定外であるため、臨床工学技士の注意義務違反には当たらないと主張したが退けられた。技士の役割は人工心肺装置の操作全般に及ぶものであり、空気混入を検知するエアートラップの監視も当然含まれると判示されている。

  • 製造者の説明義務および警告義務

 製造者は、製造物責任法施行直前に、「チューブ装着後はチューブホルダーにてチューブを確実に押さえて下さい」という警告ステッカーを貼付したとされている。それでも、人工心肺装置の故障は患者の生命にかかわる重篤なリスクを有するので、この事故で起きた現象をあらかじめ具体的に警告すべきであったとして、過失が認定されている。
 この事例はまさに、リスクアセスメントを行い、具体的なリスクとその対応策を明示することを求めているものである。使用者の臨床工学技士が、チューブの固定不十分によって摩擦、チューブ破断に至る機構を自力で予測し、対応を検討することは到底不可能である。であるからこそ、製造者のリスクアセスメントにより、具体的なリスクシナリオに即した対策の提示が不可欠となる。特にどのように故障に至るかについては、専門家である製造者のみが想定しうるもので、製造者は、どのような対策によって未然に防止しているのかを、具体的に示すことが要請されている。
 製造現場の機械の取扱説明書も、そのような観点で見直していただきたい。それによりリスクの低減につながることが期待される。