人工呼吸器チューブへのコネクター誤接続事故

「安全と健康」誌、2010年4月1日発行

プロフィール

  • 特任講師 大塚 雄市 (おおつか ゆういち)

2007年九州大学大学院エ学府機械科学専攻博士課程修了、博士(エ学)。同年長岡技術科学大学産学融合トップランナー養成センター特任講師、現在に至る。信頼性・安全性設計システム、安全管理システムの研究に従事。

人工呼吸器チューブへのコネクター誤接続事故

  • コネクター誤接続による死亡事故

平成15年、九州大学病院で、ネブライザー※1コネクターの接続ミスにより患者が死亡する医療事故が発生した。事故の経過としては以下のとおりである。
1 患者は救急搬送後、合併症治療のため集中治療部で1ヶ月間治療を行っていた。
2 事故当日は、人工呼吸器をはずして自発呼吸に移行できるか試みるために、ネブライザーマスクでの吸入を行った。しかし、末梢血酸素飽和度※2が低下したため、再び人工呼吸器の使用状態に戻した。
3 看護師が定期の吸入療法を行うため、挿管チューブにネブライザーを接続する際、T型コネクターではなくネブライザーマスクで使用するL型コネクターを接続した。
4 吸入療法開始5分後、医師が患者の血圧低下に気づき、ネブライザー吸入を休止し、用具による人工呼吸を行った。しかし患者は最終的には亡くなった。

  • 事故原因

この事故の直接原因は、前項3において、T型とL型のコネクターを誤接続したことにある。呼吸には吸入と患者からの呼気の排出が必要で、T型コネクターならば、一方が酸素チューブの吸入側に接続されており、もう一方が吐き出し口として機能するため、持続的な呼吸を行うことができる。しかし、L型コネクターの場合、患者の呼気が排出されず、吸入側からの圧力によって酸素が肺中に流入されるだけとなる。この結果、肺に正の圧力がかかり、呼吸困難の原因となる。このL型コネクターとT型コネクターは色や透明度が全く同じで誤認しやすいため、病院側としても間違えないよう注意喚起を行っていたとのことである。

  • 人の注意に頼らない対策を

システム安全設計の考え方から検討すれば、人間の注意に頼った安全確保の限界を如実に表しているように思えてならない。普段、ネブライザーマスクでは、L型コネクターを利用するため、ネブライザーを人工呼吸器チューブに接続する際に、意識をしないとL型コネクターを普段どおり接続してしまう。医療従事者がいかに高い技能を有しようとも、このエラーを完全に防止することは困難である。
誤接続防止のためにコネクターの形状を変更しておくことが対策として検討される。また、異常状態が酸素の吸入圧力で検出できうるのであれば、管の体外部に安全弁や破裂板に類する構造を設置しておくことで、圧力が異常に上昇することを防止することも対策としてはありうる。人に頼った安全ではなく、想定されるリスクに対して、システム的な対策が必要となる。
労働現場でも、作業者の技能によってリスクが覆い隠されている機械設備があるだろう。是非とも、国際規格に基づくリスク評価やリスクマネジメントを積極的に行い、想定される危険事象の導出、ひいては作業者のリスクの低減を十分に行っていただきたい。

※1ネプライザー:液体の薬剤を噴霧する医療装置。
※2末梢血酸素飽和度:指先などの末梢組織における血中の酸素濃度分圧を大気中の酸素分圧で除して%で表したもの。呼吸・循環機能が正常であるかの指標となる。