新潟県中越沖地震の教訓と企業活動における事業継続マネジメント(BCM)のあり方

「安全と健康」誌、2009年12月1日発行

プロフィール

  • 准教授 渡辺 研司 (わたなべ  けんじ)

1986年富士銀行入行。外資系経営コンサルティング会社を経て2003年より現職。内閣官房重要インフラ専門委員会委員、ISO/TC223(社会セキュリティ)WGコンビナー(国際議長)などを務める。

新潟県中越沖地震の教訓と企業活動における事業継続マネジメント(BCM)のあり方

 2007年7月に発生した新潟県中越沖地震では、その約3年前に発生した新潟県中越地震の際と同様に、サプライチェーンを経由して被災地域の範囲を越えて全国的に自動車産業で操業停止などに波及した事例が見られた。本稿では、このような大規模災害をも「想定外」としないような事業継続マネジメント(BCM)のあり方について概説する。

  • 新潟県中越沖地震の被害概要

新潟県中越沖地震は、新潟県上中越沖を震源とし2007年7月16曰10時13分に発生したマグニチュード6.8の地震である。住民への被害は新潟県柏崎市を中心に、県内近隣市町村や長野県の一部で家屋の損壊、断水や停電が発生した。
また、柏崎刈羽原子力発電所で火災事故も発生し、当面の操業を停止せざるを得ない状況に陥り、また、流通・小売業の大型店舗の被災による閉店や中小企業や商店街が廃業するような事例も見られるなど、地元経済の復興へ暗い影を投げかけた。

  • サプライチェーンを経由した連鎖障害

新潟県中越沖地震では、柏崎市にあるエンジンの主要部品製造大手の工場が操業停止となり、トヨタ自動車、ダイハツ工業が国内すべての工場で操業を停止、その他の国内自動車メーカーも生産を一部停止したことから、全国の月間生産台数が前年比約9%下落した。特定地域で発生した企業の事業中断がサプライチェーンを介して日本全体の自動車生産に大きく影響を与えたことになる。
この影響は自動車メーカーにとどまらず、何万点ともいわれる部品や部材を納入する企業群も、操業や在庫にかかわる調整を余儀なくされ、鉱工業の2007年7月の生産指数も落ち込んだ。

  • 教訓に基づくその後の取組み

被災各社では現場レベルで被災の度合いを軽減できるような取組みを実施している。例えば、工場建屋を耐震補強したり、生産情報のデータを毎日、他県にある事業所に専用回線経由でバックアップしている。また、工作機械の固定方法に工夫を加えたり、天井配管に柔軟性を持たせるといった工場内での対応に加え、同時被災しないような地域をまたがった形で生産拠点間に互換性を持たせることで、生産全体としてのレジリエンス(しなやかな復元力)を確保しているところもある。

  • 事業継続マネジメントの見地からの今後の課題

大規模地震の発生を事前に予測することは難しく、また、その発生周期が比較的長いことから、2004年の新潟県中越地震後は「喉(のど)元過ぎれば熱さ忘れる」となりがちであった。新たに学んだ教訓を、当該地域内外とも共有しながら、企業における事業継続マネジメントの枠組みに体系化して組み入れる必要がある。いずれにしても、被災経験の有無にかかわらず、自らの生業(なりわい)の再認識と重要業務におけるレジリエンスを確保するための愚直な取組みを行うのがBCMの基本である。自らの高い問題意識によって、例え「想定外」の災害や事故が発生したとしても、その企業に求められる社会的責任を全うする、という企業経営としては当たり前のことをやり抜く備えをすることが最も肝要なのである。