充てん作業中のスキューバ用アルミ合金製容器の破裂事故

「安全と健康」誌、2009年11月1日発行

プロフィール

  • 教授 武藤 睦治 (むとう  よしはる)

1976年大阪大学大学院博士課程修了、助手を務めた後、1978年より長岡技術科学大学機械系助手、助教授、教授、2006年より同システム安全系教授。事故解析、強度信頼性に関する研究・教育に従事。

  • 特任講師 大塚 雄市(おおつか ゆういち)

2007年九州大学大学院工学府機械科学専攻博士課程終了、博士(工学)。同年長岡技術科学大学産学融合トップランナー養成センター特任講師、現在に至る。信頼性・安全性設計システム、安全管理システムの研究に従事。

充てん作業中のスキューバ用アルミ合金製容器の破裂事故

  平成12年6月、沖縄県の空気充てん所で、スキューバ用アルミ合金製容器(ボンベ)が充てん直後、破裂する事故が発生した注)。その際、充てん用ホースが飛び跳ねて作業者が打撲傷を負った。この事故は従来起こりにくいとされてきた6000系アルミ合金の応力腐食割れによるもので、その要因には労働災害防止のための有益な知見が含まれている。

  • 破裂事故の原因

破裂事故は、スキューバ用アルミ合金(A6351-T6)製容器に空気を充てんし、容器圧力が約20MPaに達した作業完了直後に発生した。破裂時に飛散した2個の破片による被害としては、作業を半地下式の充てん水槽内で行っていたため、設備の一部を破壊したにとどまったが、飛び跳ねた充てんホースが作業者の右足を直撃し、打撲傷を負った。この事故の発生メカニズムは、容器内に水分、塩分が浸入してねじ部を腐食させ、容器の内圧と腐食の相乗効果によりねじ部にき裂が生じ、そのき裂が充てんを繰り返す中で徐々に成長して、ある長さに達した時点で破裂に至ったものと考えられている。
事故調査委員会の調査からは、以下の点が要因として指摘されている。
①製造時に熱間加工を容器頭部に行うことで、その付近の金属組織が変化し、腐食に対する耐性が低下した。
②容器の内圧が0の場合は充てん準備中に水分や塩分が容器内に浸入しやすいこと。
③浸入した塩分、水分は、ねじ部のすきまで腐食を引き起こしやすいこと。
④圧力容器は、破裂前にき裂が容器の厚みを貫通し、内容物が漏洩することで圧力が低下し破裂には至らないよう設計されている。しかし、この容器のねじ底部からき裂が進展する場合はその条件が成立しにくく、破裂する可能性があったこと。
以上の要因が複合的に関与し、破裂に至ったものと推定されている。対策としては、より耐食性がある材料に変更しても割れは発生することから、1年に1度の目視点検を行うよう規制すること、塩分、水分の浸入防止措置をとることが挙げられている。

  • 事故から得られる教訓

安全設計の観点からこの事故を分析すると興味深い点が見えてくる。この容器の異常状態を何らかのセンサーで検知できただろうか? 少なくとも、容器の内圧は、設計者の想定範囲を越えてはいない。き裂の長さを観察していればよいが、容器がねじ底からのき裂進展で破裂することをあらかじめ想定していなければ対応できない。
すなわち、リスク評価の最初のステップである危険源の同定において、この破壊事故については破壊力学や材料強度についての基礎知識を必要とするのである。その意味で、構造の異常状態を予測する手法FMEAと、異常によって生じる危険源が人にどのような危害を及ぼしうるかを検討するリスク評価を連動して実施する必要がある。労働現場で、リスク評価を行う際、どのような異常、破壊が起こりうるかを予測する必要があり、信頼性および品質管理等の専門家と協力して実施していただきたい。このような取組みは、具体的な危険事象の導出、ひいては作業者に対するリスク低減に有益であると考えられる。

1) 注) 本事例紹介は、高圧ガス保安協会の事故調査報告書を参考にしている。