大型重機の安全確保に向けて

「安全と健康」誌、2009年7月1日発行

プロフィール

  • 准教授 阿部 雅二郎 (あべ まさじろう)

1989年九州大学大学院工学研究科機械工学専攻博士課程修了、工学博士。同年長岡技術科学大学助手。同助教授を経て、2007年同准教授。専門は機械動力学、安全設計工学。ISO/TC96国内委員会委員長

大型重機の安全確保に向けて

 大型重機の事故のニュースをよく見聞する。その事故防止あるいは減少に向けて、さらなる安全性の向上、安全確保を図るために、取り組むぺき方向性について、大型重機転倒事故事例を取り上げて論じる。プロである作業者は事故につながる「誤り」をゼロに維持し継続できるのであろうか。

  • 人間への依存には限界がある

大型重機に限らず機械の安全を確保するために、主として何をよりどころあるいは何に依存すべきであろうか。言うまでもないが、人間、機械あるいは両者が考えられる。人間は優秀で、特に日本人は勤勉なので、しっかり教育して人間に依存しようというのは、当たり前のようではあるが限界がある。人間に依存するならば、人間の感覚や判断が重要な役割を果たすことになるが、人間の感覚が機能発揮に努めても、「感じにくい」、「感じない」場合や「感じないことにする」場合がある。人間が備えている感覚を単純に分類すると五感となり、そのうち、特に機械安全では、視覚、聴覚、体感を含む触覚、ときには臭覚が大切となる。しかし、社会が豊かで便利になったせいか、人間の感覚は鈍化傾向にあると思える。併せて判断の機能も鈍化しているようである。人間に依存できる限界は低下していると言える。

  • 事故事例にみる人間の誤り

安全確保に、これからも人間に依存し頼りにしてよいのだろうか。写真に大型重機のひとつである基礎工事用機械(アースドリル)の事故現場の様子を示す。マンション新築工事現場でケーシングのつり上げ作業中に機械が転倒したものである。トラック1台と歩行者が下敷きとなり、工事用機械の運転者も含め6人が死傷した。
こうした工事現場で起こりうる「誤り」の中身を列挙してみる。「誤った認識」の対象として、つり荷重量そのもののほか、機械を支える地盤状況(地形(傾斜等)および地質(軟弱の度合い))、つり上げ作業時の機械の基本性能(つり上げ可能荷重と作業半径の関係)がある。また、機械は水平で堅固な地盤上での作業を前提に設計されている。使用者、運転者および作業者は全員正しく、誤りなく認識しているであろうか。「誤った操作」として、巻上げ中のつり荷が地中に一部埋没している場合の横引きなどがある。大げさにいえば、地球を引っ張るようなものである。「誤った判断、行動」として、転倒予兆を感知(体感)した後の不適切な行動もある。機体の浮遊感を看過し、作業を継続する行動に出ることもある。作業を早く終えたかったり、目の前のことが気になったりすると、とっさの判断で行動してしまうこともあろう。
機械の周辺にいる人間は、こうした誤りによるリスクに常にさらされているのである。単純そうな機械の作業においても、さまざまな誤りの種は潜んでいる。人間の誤りは起こりうると考えるのが自然である。それをできる限り起こさないのがプロであるはずだが、プロも人間である。人間に依存するまま進めば、人間の誤りに起因する事故の顕在化は今後ますます進むと思われる。便利さと引き換えに人間の感性や判断能力は低下するだろう。やはり、人間に依存するのではなく,人間の誤りを許容可る安全システムの現実的な構築が必要である。機械に技術として、すきまなく安全を盛り込んでいくことが課題となる。