医療用ガスの取違え事故

「安全と健康」誌、2009年4月1日発行

プロフィール

  • 特任講師 大塚 雄市(おおつか ゆういち)

 2007年九州大学大学院工学府機械科学専攻博士課程終了、博士(工学)。同年長岡技術科学大学産学融合トップランナー養成センター特任講師、現在に至る。信頼性・安全性設計システム、安全管理システムの研究に従事

医療用ガスの取違え事

 今から30年以上前、関西の病院で、麻酔器の口金に酸素ボンベと亜酸化窒素(笑気ガス)ボンベのゴム管を間違えて接続する事故が発生した。患者は亜酸化窒素ガスを吸入し続ける状態となり、無酸素症による意識喪失を起こし、死亡した。この事故は医療用ガスの取違えによるものであるが、その背景要因には労働災害防止のための有益な知見が含まれている。

  • 誤使用させない設計の重要性

関西地方の病院での手術中に、麻酔準備を担当していた正看護師が麻酔器の口金に酸素ボンベと亜酸化窒素(笑気ガス)ボンベのゴム管を間違えて接続した。患者は亜酸化窒素ガスを吸入し続ける状態となり、無酸素症による意識喪失を起こし、死亡した。この事件で医師、看護師が業務上過失致死罪に間われ、医師には執行猶予付きの禁固刑、看護師には罰金刑が下された。この事故はガスボンベの誤接続が直接的な要因と考えられている。
この事故の危険源としては、”ヒューマンエラー、人間挙動”注)があげられる。すなわち、誤接続により酸欠という危険事象を引き起こすことが容易に予測されるものである。したがって、そのようなエラーを防止できるような対策(本質安全設計)を導入することが望ましい。医療機器に関するリスクマネジメント規格(JIS T 14971 A.2.27)においても、「注意散漫な環境において多様な使用者が容易に誤使用を生じないように設計することが望ましい」と明記されている。
比較的規模の大きい病院では、ガスの供給設備は集中管理されているので、手術室等においては、壁面の配管端末器に接続してガスを供給するようになっている。この配管端末器も、ガスを特定できるような形状にすることが規定され、また、ガス固有の識別色表示が規定される等、誤接続防止のための対策が必要となる (JIS T 7101、T 7111)。このように、関連法規・規格を参照しつつ、危険源を明確に同定して予防対策を講じることが、過去の事故を教訓として活かす最も有効な手段ではないかと思われる。特に、事故を個人要因に帰することなく、危険源分析に基づき、システム的な対策を施すことが必要である。

  • 法規と規格の整合性

なお、本事例については、法規と規格にまつわる問題点も近年指摘されている。救急搬送等で用いる小型ガスボンベは、使用者の立場ではJISに依拠(いきょ)していることが望ましい。しかし、病院で集中管理するような高圧ガスボンベの製造等は高圧ガス保安法、高圧ガス取締法で規制され、その識別色は同法容器保安規則に指定されているため、JISと法規の間で非整合(酸素ガス容器は容器保安規則では黒色、二酸化炭素ガス容器は緑色と規定。JIS T 7101では酸素ガスの識別色を緑色と規定)がある。そのため、緊急時などには識別色の認識があいまいとなり、エラーを誘発しやすくなることが予測される。
2008年には福岡県の病院で酸素ガスと二酸化炭素ガスを取り違える事故が発生しており、早急な対策が望まれる。
労働現場においても、設備によって操作ボタンなどの色や形状が変わったりしないよう配慮することが重要である。作業のエラーを防止するためには、システム的な対策が有効であり、かつ必要であると考えられる。

 

注) JIS B 9702 「機械類の安全性ーリスクアセスメントの原則」の「附属書A(参考)危険源、危険状態及び危険事象の例」に示された危険源。

編注) 参考:平成21年3月3日付け医政指発第0303001号「診療の用に供するガス設備の誤接続防止対策の徹底について」が厚生労働省から発出されている。